■□■ チュニジア料理(アラブ・トルコ地中海料理) ■□■

tunisia

◆ 訪店日

  2008年1月25日(金)

◆ お店

  『カルタゴ』

     JR中野駅 南口 徒歩3分

       http://carthago.a.la9.jp/index.htm

◆ つぶやき

みやちゃん≪真昼の光の中で≫
地中海に面したシディ・ブ・サイドの町では、真昼の強い日差しが石造りの白い外壁に反射して眩しい。
馬蹄形に縁取られた中の明るいブルーに塗られた木製の入口の扉は、いくつもの鋲が打ち込まれ芸術的な幾何学模様を生み出している。
大空のぬけるような青、地中海の澄んだ青、眩しいくらいの白い家々、装飾された扉の青、その強烈なコントラストが真昼の夢幻の世界へと導いてくれる。
内陸向かうと、一転して白と青の世界からベージュ色一色の世界になっていく。
赤茶けた大地に、規則正しく植えられた地平線の彼方までつづくオリーブ畑。
まるで軍隊の行進のように縦・横・斜め、どこから見てもきれいに整列している。
車でいくら走っても、走っても、家も人も見あたらず、同じ景色が延々とつづく。
乾燥した大地の一本道をひた走ると、やがて地平線の彼方まで見渡せるような平たい大地に古代ローマ時代の遺跡が数キロにわたって広がっているのが見えてくる。
スベイトラのスフェチュラ遺跡である。
美しいモザイクの床がある貴族の館、神殿へとつづく聖なる道、今は見る影もないが美しい柱頭をもった円柱の回廊で囲まれていたであろう公共の広場アゴラ、ローマ人につきものの巨大な複合施設を備えた公衆浴場、洗礼のための水盤が残る礼拝堂、そして、最高神ゼウスのための神殿を中央に、左には知恵の神ミネルヴァ、右にはゼウスの妻ヘラの神殿がそれぞれ数段の階段の上にそびえている。
修復された3つの神殿は遠くからでも、その姿がわかる。
大きな方形の石が敷きつめられたアゴラは、所々石が割れていたり、石と石の間のわずかな隙間から緑の草と小さな白い花が顔をのぞかせ、時の流れを感じさせる。
ミネルヴァ神殿の階段を上がりかけると、大粒の雨がポタポタと落ちてきた。
見上げると、先ほどまでの青空が嘘のように、墨を流したように地平線の方からどんどん鉛色の雲がものすごい速さで押し寄せてくる。
辺りが暗くなってくるのと同時に、激しい風が吹いてくる。
雨が、風が、横殴りに強く吹きつける。
車に引きあげるために遺跡の中の道を車道に向かって急ぐ。
しかし、向かい風になると、風に押し返されて、もはや一歩も進むことができない。
そして、砂や小石がパチパチと足や顔に当たり、猛烈に痛い。
手で顔を覆うようにして、下を向いて車に急ぐ。
雨がだんだん激しくなり、乾いた砂にまみれた淡いベージュ色の遺跡全体が、雨に濡れて濃いベージュ色に変わっていく。
遠くの方で、雷鳴がとどろく。
すっかり暗くなった空に、稲妻が走る。
ほうほうのていでバスに乗り込んだ途端、バケツの底をひっくり返したような大雨になり、バスの屋根を叩く雨の音以外、何も聞こえなくなる。
しばし雨の中に閉じこめられた後、雨は降りだしたときのようにまた突然上がり、明るくなりだした空に七色の虹の橋がかかった。
雨に濡れて陰影の濃くなった広大な遺跡。
左手の地平線の彼方にゼウス神殿をはじめ、3つの神殿がまるで小さな丘のように見える。
その足元に立つと、人間は自分の小ささを感じてしまうような、見上げるほど巨大な円柱と切妻型の破風からなった神殿も、これだけ距離が遠くなると、遺跡全体がまるで箱庭のように小さく見える。
さらに、南に向かって進む。
砂漠化した土地に棗椰子の緑の塊が風に揺れる。
トズール、砂漠の中の小さな動物園。
車を降りた途端、サラサラの砂地に足がめり込む。
動物園の入口のポーチの屋根は、巨大なサンド・ローズ(石膏石の結晶)で飾られている。
砂がミネラルを含んで固まった硬い石の板が幾層にも薄く重なって、本当にバラの花びらのようだ。
入口を入ってすぐの所の煉瓦の壁にはラクダの白骨化した骨がいくつも掛けられてオブジェとなっている。
強い日差しと乾燥した気候の中では、生と死の明暗も、砂漠の真昼の光と影のようにはっきりとしていて、骨はあくまでも1つの物質でしかなく、陰湿さや悲愴なところがなく、すべてがあっけらかんとしている。
途中、塩湖を通る。
車を止めて車外に出る。
乾いて干上がった塩の湖が雪原のように白く見渡す限り広がる。
近づくと、一見乾燥していてその上を歩けそうに見えるのに、いざ足を踏み出すと、湿地帯に入り込んでしまったように、ぬかるんだ土の中に靴がズルズルとめり込んで、たちまち泥だらけになってしまう。
手につかんだ一握りの天然の塩は、ザラザラといくつかのかたまりになって宝石のように日の光にキラキラと輝いている。
地平線の方を眺めると、蜃気楼の建物群が揺らめいている。
再び車に乗って、しばらく平らな道を進んだ後、道がしだいに上り坂になり、カーブを描きながらベージュ色の大地がむき出しの山道を登っていく。
舗装された道は終わり、激しい土埃を舞あげながら急な坂道を一気に登り切って、車は突然止まる。
坂道を登っているときは、ただただ茶褐色の岩肌しか見えなかったのが、眼前には嘘のように棗椰子の緑の谷が広がっている。
緑の棗椰子の間の細い道を下っていくと、大きな岩と岩の間から澄んだ清水が湧き出ているところに出る。
それから、今度は、茶褐色の大きな岩がゴロゴロしている岩山を登っていく。
ひとしきり急な岩場を登った後、平らだけれど大きく湾曲した細い砂まじりの岩場を歩いていくと、その向こうに高さ10メートル近くもあろうかと思われる2枚の大岩が行く手に立ちふさがっている。
どうしたものだろうかと思いながら近づいて行くと、そばまで来ると、2つの岩の間に人ひとりがやっと通り抜けられるような狭い隙間があいているのが見える。
穴の向こうには、やや霞のかかったような青い空しか見えない。
まるで空中に向かって開かれた扉のようだ。
岩の間を通り抜けた途端、強い風に吹きさらされる。
足元はすぐに急な下り坂になっていて、今は無人の廃墟になっている崩れかけた日干しレンガのベルベル人の住居跡につづく。
そして、その向こうには、最初に見た小さな土産物屋の店先のカラフルな布が風にあおられて、ハタハタと揺れていた。さらに遠くへ目をやると、建物も道もないひたすら平らな荒れた無人の大地が地平線の彼方まで広がっている。
目にうつるのは青い空と人気のない大地、聞こえるのは風のささやきだけ。
何の動きも感じられない風景の中では、まるで時の流れが静止してしまったかのようだ。
目をつぶって、ひと時太古からの風の愛撫に身をゆだねる。
サハラ砂漠の入口の町ドゥーズに近づくと、広々とした白い砂の大地のあちらこちらに岩のような黒っぽい塊が点々と散らばっている。
さらに近づくと、それらは前後の脚を折りたたんで座っているラクダだと気づく。
なんとも不思議な光景だ。
ここドゥーズの砂漠は、アイボリーを思わせるほんとに淡いベージュ色でこの上なく美しい。
真昼の強い日差しの下では、ほとんど白に見える。
どこに行ってもクリアに青いチュニジアの空。
白い砂の大地。
ゆらめくような光。
悠久の時の流れを感じさせる風の声。
時おり、それらがとても懐かしくなる。 (みやちゃん)